包丁持った男に襲われたこと。

数年前のある日、妹が変質者に襲われた。

妹は軽度の知的障害で、予想外のことが起きると固まって泣いてしまう。

その時も泣いて帰ってきて事件発覚。

身体を触られたけど、怖くてなかなか逃げられなかったらしい。

警察に連絡したし、防犯ブザーも持たせた、人通りの多い道を通るようにも言ったけどやっぱり不安。

なので足が不自由な母に代わり、当時ニートだった私が送り迎えをすることに。

ここまでが前提。

事件が起こって2週間ほどのある日、仕事が終わった妹を連れて歩いていた。

なるべく人通りの多いところを通っていたけど、その人通りが多いところの隙間のような住宅街を通ってた時。

前から、やけにふらふらした男が歩いてきた。

変な人だなーと思っていたら、その手にあるのは包丁だった。

血の気がひくって、ああいうことを言うんだと思った。

それに気づいた途端、男がこっちにダッシュしてきた。

何を思ってそうしたかは我ながらわからないけど、妹を突き飛ばして私が地面に転がった。

男が振り向いたその目が完全にイカれたものだったことはハッキリ覚えてる。

咄嗟に男の足にしがみついて、色々たくさん叫んだのはぼんやり覚えてる。

元々声がでかくて、学生時代は応援団に駆り出されるぐらいだった。

たぶん、近所中に響いたんだと思う。

気づいたら駆けつけてくれたらしい男性は刃物男を取り押さえ、女性は私たちを囲んで心配してくれてた。

恥ずかしい話なんだが、当時既に成人していたくせに私はめちゃくちゃ泣いてた。

というか、泣き叫んでたらしい。

後から聞いた話だと、

「防犯ブザー」



「殺される」



「逃げて」

をずっと叫んでたらしい。

近所の女性たちが宥めてくれたけど、私はずっと子どもみたいに泣いてた。

言い訳すると、2週間ほど妹の送り迎えで気を張ってたし、夜型生活だったのを朝型に戻されて、身体のリズムがおかしくて寝不足でイライラもしてた。

何より、妹が心配だった。

以前から友達に「シスコン」呼ばわりされるぐらいには世話焼きらしい。

その妹はというと、あまりの事態に脳の許容量を超えたらしく、へたりこんでポカーンとしてたとか。

刃物男は誰かが呼んでくれた警察に連れていかれ、私たちも事情聴取的なものをするために警察へ。

が、私は助かったのに

「妹が、妹が」

と泣いてるし、妹は茫然自失だしで、来てくれた母と女性警察官が粘り強く宥めてくれた。

結局、事情聴取的なものは後日にしてくれた。

そんな一連の出来事が修羅場。

後日聞いた話だと、刃物男はやっぱり妹を襲った変質者だった。

ただ、刃物を持っていたのは妹を襲うためじゃなく、私を刺すためだったらしい。

前回妹を襲った時に、怖くて固まってたのを見て、なんか知らんが好きになったんだと。

で、また二人きりで会いたいけどその一件以来、妹が外に出る時は必ず私がくっついてるのが気にくわなかったと。

妹本人も、私が常にくっついてるのは迷惑がってる、だから排除すれば妹も喜び刃物男もハッピーで一石二鳥だそうな。

その思考回路は全くわけわからんが、どうやら私たちが知らない間に家や職場までつけられて知られてたらしい。

なのに家に侵入しなかった理由はわからないけど、それだけは不幸中の幸いだった。

キチ◯イな男に刃物持たせると、あんなに怖いのかと思った。

あの時の話をすると、妹は必ずこう言う。

「包丁持った変な人も怖かったけど、泣いてるお姉ちゃんもちょっと怖かった」

酷い。

でもまあ、妹の前であんなに泣きわめいたことないからなぁ。

その後、念のために隣町に引っ越したりなんだり色々あったけど、今は元気です。