私が当時大学生で教育実習に行ったときの話。

母校に教育実習に行くことになり、かつて習ったことのあるU先生(国語教師。40代後半独身)がまだ在籍していたためあいさつした。

私がこの学校の生徒だった当時、U先生は生徒に軽んじられ、教師間でもいじめられていた。

べつに普通の人なんだけど気弱そうなので生徒になめられやすかったんだと思う。

教師間で仲間はずれにされてた理由はよくわからない。

でも生徒の目から見てもあからさまにはっきり馬鹿にされていた。

でも教育実習に行ったときのU先生にはもうかつての気弱さはなく自信ありげにどっしりした印象だった。

異例なくらい長い在籍だし、もう「主」って感じなのかなあと思った。

とりあえず緊張しまくりのまま初日は終わり周囲の先生にもあたたかく迎えられて一安心だった。

でも一週間たったあたりでだんだん周囲のことが見えはじめてきてU先生がやはり教師間で浮いていることがおぼろげにわかってきた。

ベテランなのに担任を受け持ってないし、授業もほとんど出てない。

U先生の受け持ちクラスは自習ばかり。

普段U先生が何をしているかというと教務室で雑誌読んでるか体育館の掃除をしてるかでたまに付属の小学校の校舎の方に行っては勝手に生徒に飴を配って小学校の先生たちに追い返されたりしていた。

年の近い英語のT先生にそれとなくU先生のことを聞いてみると

「実習の間だけあたりさわりなく過ごせばいいから」

とやんわり話題を避けられてしまった。

学校近くのコンビニでお昼のパンを買っていると後ろからぽんと肩を叩かれた。

振り向いたらU先生だった。

「あ、どうもこんにちは。U先生もお昼買われるんですか?」

と聞いたがU先生は私の声が耳に入ってない感じで

「若い娘が自分で弁当も作らずにパンかあ、ふーん、まったく今時の女は。料理もろくにできないのか。まったくなってない。そんなことだろうと思った。若いうちから昼食に300円も使うなんて贅沢を許すから社会がおかしくなる」

と、こんなようなことをブツブツ言い始めた。


私が

「え?え?」

と思っている間にU先生はどんどん声が大きくなっていき

「若い女は!だから!だめなんだ!」

そこでガっと肩を掴まれ

「俺が教育し直してやる!!」

と言われた。

私は怖いやら周囲の客にジロジロ見られて恥ずかしいやらで

「ああ、はあ」

みたいなことを言ってその場は逃げた。

あとから思えばそこで

「やめて下さい!」

って言っておけばよかったのかもしれないけど当時はどうしていいかわからなくてただ穏便にやり過ごしたかった。

でもU先生は私のその対応を肯定と受け取ったらしく翌日から陰でつきまとってくるようになった。

肩や腰に手を回してくるし、私が逃げると

「お前は俺が教育してやってる真っ最中だろうがー!!」

と怒鳴る。

相手は担任ではなかったとはいえ恩師だし、今も昔もずっと目上の人だし実習を平和に穏便に終わらせたいしで、

「終わるまでの我慢、終わるまでの我慢」

と自分に言い聞かせて日々を耐えた。


でもU先生はだんだんエスカレートしてきてお尻を鷲掴みにしたり、無理やりキスしてこようとするようになった。

風俗通いの武勇伝?を長々と聞くよう強要されたりして実習後半は私もほとんどノイローゼ気味になり

「ハイハイって言うこと聞いてた方が楽。どうせもうすぐ実習は終わるし」

とほとんど逆らう気をなくしていた。

U先生のぶんもお弁当を作るよう命令され、言いなりに作ったりもしてた。

今は当時の自分が変だったのがわかるけど当時そのさなかにいると麻痺して変さがわからなくなってた。

その頃私は同じ大学に彼氏がいた。

でも彼氏にろくに連絡もできなくなっていた。

U先生が

「ほかの男と話すな!」

と命令するし、なぜかそんなことしたらすぐU先生にバレると思っていた。

完全におかしくなっていた私は

「彼氏までU先生に何かされては…」

と彼とほぼ完全に連絡を絶っていた。


そんなこんなでやっと実習が終わり私は大学生活へ復帰。

しかしU先生のつきまといはやまなかった。

私の呪縛もとけなかった。

実習の間ずっと連絡しなかった私を彼氏はあやしんでたらしい。

その後もU先生に呼び出されたら彼氏の目を盗んでこっそり指定の場所に行き、先生の風俗武勇伝を聞き続けていた。

当時男性経験がなかった私にとって風俗自慢は汚らしいだけだったがはいはいすごいですねと聞き流すことにそのうち慣れた。

ある日私がいつものようにU先生の自慢話を聞いていると背後から

「おい!」

と言われた。

振りかえると彼氏。

私が浮気してると思って尾行して来たらしい。

頭がいっちゃってた私は

「ああ…これで彼氏も私と同じくU先生の奴隷か」

と思い、なぜかすごく冷静に

「彼くん、紹介します。こちら恩師のU先生です」

と言った。

U先生もなぜかすごく冷静に

「こんにちは」

と彼にあいさつした。

でもその後U先生は烈火のごとく怒りだして

「なんだこいつは!男がいたのか!まったく若い女はこれだからだめなんだ!まだ教育が行きとどかないのか!!」

と私に怒鳴り出した。

私は

「まあまあ」

となだめる。

突然怒鳴りだすU先生も、その隣でうつろな目で

「はあ、はあ」

言ってるだけの私も相当に異様だったらしく、彼氏が慌てて私の手をつかんで表に出した。

先生は追ってこなかった。

その夜私は彼氏の部屋に連れて行かれて今までのいきさつを全部白状させられた。

彼氏は

「U先生はあきらかにおかしいし、先生に感化されてお前もおかしくなってる。しばらくこの部屋にいろ。冷静に戻るまで先生とは連絡とるな」

と言い、私ももうあまりものを考えたくなかったから言うとおりにした。

U先生と連絡を絶って、彼氏や大学の友達と接しているうち私の洗脳は二十日くらいですっかりとけた。

その後U先生は連絡がとれなかったことに焦れて私実家を襲撃し、門柱の明かりを壊したりしたが新聞沙汰にしたくない校長がじきじきに謝罪に来たので私実家も不問にしたらしい。

実はU先生は過去にもいろいろ問題を起こしていたのだが

「身内の恥」

みたいな感覚でずっと校内でもみ消してきていてずっと異動させなかったのも

「よそに迷惑かけずうちうちで処理」

というはからいだったらしい。

一番最初にU先生が起こした問題が

「教務室でのいじめにキレて暴れた」

っていう件だったから学校としてはそれを公にするわけにいかずU先生は長くいるうちにどんどん腫れもの扱いになり、表だって彼に逆らう人がほとんどいなくなってたらしい。

だからあんなにも最初からどっしり偉そうな態度だったんだなあ…。

私は電話番号を変え、引っ越し、U先生とは連絡とれない状態になりさいわいその後実家襲撃もありませんでした。

U先生は何年後かに教職を辞したそうです。

私も教師にはならず民間に就職しました。

今思えばよく襲わられずに済んだな…と冷や汗が出る思い出です。

おわり。