三倍返しが流行った頃の話し。

大学に入って人生初の彼氏ができた。

彼氏は所謂理系男子で私は文学部所属。

全くといって良い程、共通点はなかった。

同じ部活に所属していなければ付き合うこともなかったと思う。

周りからは上手くやっていけるのか心配されたが、私も彼氏も不思議と馬が合い、喧嘩もなく仲良くやっていた。

しかし、周囲の心配は意外な形で的中してしまった。


ある日、私と彼氏は二人で食堂に来ていた。

どうにか席を確保し、一息ついていると一人の女子が声をかけてきた。

彼氏は面倒そうにあしらいつつ、知り合いであることを私に伝え、その女子を追い払おうとした。

しかし、女子はその場を去る素振りも見せず、私の隣にどっかと席を取るとにやつきながら

「どうも~、彼氏君と同学部のA子(仮名)でーす。彼女さんですよね~、話には聞いてたけど如何にも文系女子(笑)って感じですね~w彼氏君とはレベルが合わないでしょうし別れちゃったらどうですかぁ?」

と絡んできた。

私を馬鹿にした物言いに彼氏が怒り、強い口調で追い払いにかかるとA子の目の色が変わった。

A子は机を叩きながら怒鳴り始めた。

「彼氏君は!バンッ、騙されてるの!バンッ、文系女子(笑)なんて!バンッ、頭軽いのに!バンッ、私のが!バンッ、可愛い!バンッ、付き合ってよおおおおおお!バンッバンッバンッ」

食堂は静まり返り、A子は尚も机を叩いてわめき散らしている。

私は呆気に取られつつも、A子の姿に何故か見覚えがあることに気付いた。

記憶を辿り行き着いたのは意外な人物だった。

A子の一言毎に机を叩いてヒステリックに喚く姿は、半沢○樹の小木曽さんそっくりだったのだ。

小木曽さんが頭を過った瞬間、私は思わず吹き出していた。

笑う私を見たA子は茫然として、わなわな震えていた。

彼氏が私に訝しげな視線を送っていたので、私は弁解しようとするのだがどうにも笑いが止まらない。

結果、

「半沢っ半沢直樹っうぶふぉっw小木曽えひゃひゃひゃひゃwww」

という奇妙なうめきが生まれ、周囲の人々のうち何人かがわたしの言わんとすることを察して吹き出し、その笑いがどんどん伝染して最終的に、A子は彼女の奇行に注目していた人々から笑い者にされてしまった。

A子は我に返ると顔を真っ赤にして

「何よっ、みんな馬鹿にして」

とどこかに行ってしまったが、しばらくみんなの笑いは止まらず、私と彼氏も恥ずかしくなってそそくさと食堂を後にした。

大きな騒ぎにしてしまったことは、落ち着いた頃を見計らって彼氏と共に食堂のスタッフさんに謝罪しに行ったが、逆にA子に何かされていないか心配されてしまった。

後日聞いた話だと、A子は彼氏のことが好きで告白したが、文学部の彼女がいるから断られたことを根に持ち、私をどうしても馬鹿にしたくて奇行に及んだらしい。

この出来事以降A子には小木曽というアダ名が定着し、ヒステリーを起こす度に小木曽だ~とからかわれたらしい。

少し申し訳なく思っている。