母の、遅い中二病ドリームのノートを見た時が修羅場。

私の兄は、大学受験と就職に必要な国家資格の試験で、あわせて3年浪人をしており、

「この子は要領が悪い」

と母の心配の種だった。

でも就職してからは問題なくキャリアを積み、やがて知り合った同職種の女性と結婚することになった。

当時、兄は31歳、義姉になる人は33歳。

父も母も大喜び、義姉になる人が家に来た時も

「要領の悪いウチの子がこんな立派な女性と」

と歓迎ムードだった。

ところが、兄の結婚式が近づいたとき、私と従妹・従姉の前で本音を漏らした。

「本当はもっと別な女性がよかった」と。


義姉さんは、兄と同職種で、年上だからキャリアも上(当時の兄より上位の資格持ち)、もちろん年収も上。

しかも、いかにも仕事できそうなキリっとした風貌で、父子家庭に育って弟妹の面倒を見てきたため家事もバリバリできる。

いったい何が不満なのかと聞いたら、母の理想は

「若いお嬢さん育ちで、物知らずで家事とか苦手な嫁にいろいろ教えたかった」

「『お義母さま~』って甘えられたり、尊敬されてニコニコ仲良くやりたかった」

「時にはやりくりに困った嫁に頼られてこっそり小遣いを渡すとかしたかった」

という、少女趣味というかなんというか、正直言ってキモいドリームだった。

酒が入っていたせいもあり、私と従妹・従姉で

「きもちわる~w。そんな女今時いないってw」

「そんな嫁おばさん苦労するだけよw」

とか笑いながらフルボッコにしたら、

「何よ!夢くらい見たっていいじゃない!」

って半泣きになってしまった。


確かに母は少女趣味なところがあり、私にお嬢さん的な「女らしさ」を求めることがあった。

「娘とお買い物」

「娘と一緒に並んで料理する」

というドリームに付き合わされて辟易したこともあった。

でも私は母の思うように育ったわけでもなく、また母もさすがに成人後は非常識な要求はしてこなかった。

それで、どうやらドリームの対象が未来の「嫁」になってしまっていたようだった。

母が暴走して嫁姑問題にならないかちょっと心配だったので、父にそれとなく話して様子を見ていたけれどその後は特に問題なく、私も忘れていった。

そして10年ほど経った去年、古くなった実家を全面建て替えすることになり、すでに結婚していた私も実家に残していた私物を整理するために実家に行った。

もう必要ない本やノート類はほとんど処分することになったんだけど、梱包する前に、捨てちゃいけない書類が紛れていないかチェックしていたら、覚えのないノートが紛れていた。

で、中身を確認すると、それは母の中二病ドリームノート(というか日記形式)だった。


日付は兄が結婚する少し前頃から結婚後しばらくまで続いていて、母の理想の「嫁ちゃん」と母の架空の仲良し生活をつづっていた。

母が内心でどんなことをかんがえていたのか、背筋に寒気が走り、心臓がバクバクした。

このまま捨てるべきか、何か問題が起こった時のために残しておくべきかとか、いろいろ考えて結局そのまま捨てたが、母や兄・義姉に動揺しているのを悟られまいと無理にハイテンションでしゃべって

「私ちゃん、ちょっと疲れてない?」

と言われたあたりまでが修羅場。

その後兄夫婦と父母は同居しているが、今のところ嫁姑関係は良好で、孫に対しても、嫁を立てながら程々の距離で可愛がる良いおばあちゃんらしい。

ノートを私のものに忍ばせて処分しようとしたのは、中二病から醒めて黒歴史になったからだと思いたい・・・。