私が小学校の頃「感謝の日」が毎月あった。
普段は給食なんだけど、その日はおうちの人と一緒に弁当作って毎日ご飯を作るって大変!作ってくれる人に感謝しましょーってだいたいそういう主旨だったと思う。
アラフィフの私が小学生だから、もう大昔の話なんだけど当時から既にシングル家庭もあってそれに配慮されてたらしく自分の机で自分だけで食べる決まりだった。
同じクラスのAちゃんはきれいな女の子で頭も良くてグループは違っってたけど、憧れの子だった。
ある感謝の日の朝に下駄箱でAちゃんに会ったらAちゃんはロッカーに自分のお弁当を隠そうとしていた。
「昨日大人の人が誰もいなくてちゃんとしたお弁当作れなかった。仲良しの子たちと席が近いから絶対に見られちゃう。恥ずかしい。いっそ忘れたって事にしようと思って……」
私は自分のお弁当と交換しようと提案した。
私の席は先生が近いので他の弁当を見ようとする子はいないだろうしいたとしても仲良しは他のクラスにいるから大丈夫。
これは言わなかったけど、憧れのAちゃんのお弁当も食べてみたかった。
Aちゃんはほっとした表情で交換してくれた。
お弁当の時間に開けてみたら、確かに大人の手が入っていない感じ。
半分以上がごはんとふりかけで、後は玉子焼きと魚肉ソーセージだけ。
でもこの玉子焼きがとてもとても美味しかった。
ちょっとだけ焦げてたけど、甘じょっぱくて我が家の玉子焼きとは違う味だった。
帰りにお弁当箱を交換する時に
「玉子焼きすごく美味しかった!」
と言ったら
「私が焼いたんだよ」
って嬉しそうに教えてくれた。
「今まで食べたどの玉子焼きよりも一番美味しかった。また次も交換して!」
そうお願いしたらちょっとびっくりした後にオッケーしてくれた。
感謝の日の朝は早めに来てさっと交換する。
帰りもささっと交換。
私は憧れのAちゃんに食べて貰いたくて自分の時は適当に冷食で埋めてたのに母や姉に習ってお弁当作り頑張った。
Aちゃんのお弁当はいつも同じ玉子焼きとソーセージとふりかけ。
玉子焼きは相変わらず美味しくて嬉しかった。
何回目かの感謝の日、いつものようにお弁当を交換してお昼に開けたら硬そうなご飯の塊がいくつか入っていただけだった。
今考えると、仏壇か神棚にあげたやつだったと思う。
私の大好きな玉子焼きもなく、お線香の匂いのご飯だけ。
その日の朝もいつも通りだったAちゃん。
一度もこっちを見なかった。
呆然と番頭を眺めてたら食べださない私を見て先生が覗きに来た。
咄嗟に蓋して隠したけど見られてしまって、でもベテランの先生だから何かを察してくれたんだろうね。
「具合悪いなら保健室に行ってきなさい」
って助け舟出してくれて教室から逃げ出した。
昼休みが終わるまでトイレで泣いて顔洗って戻った。
放課後、どんな顔していいかわからなかったけど待ち合わせ場所に行ったらAちゃんが怖い顔して立っていた。
中身が入ったままの弁当を返したら、私の弁当箱を投げて返された。
「カワイソーな子に恵んで気分よかった?」
って冷たく言われた。
返された弁当を開けたらあちこちつついてあったけどほとんど残ってた。
また涙が出て来て、言葉が出ないうちにAちゃんは帰ってしまった。
中身が入った弁当持って帰ったら、何があったのか聞かれるだろうから一人で手づかみで残りの弁当を食べた。
Aちゃんの玉子焼きより美味しい物は一個もなかった。
私はそれからAちゃんに完全に無視され、やがてAちゃんは転校した。
Aちゃんは美人で複雑な家庭だったのでいろんな噂があったけどどれが本当かわからないので、全部嘘だと思うようにした。
私は地元で進学、就職し結婚もして子供も生まれた。
ほんの数年前、Aちゃんと偶然に再会した。
私はおばさんになっていたけど、Aちゃんは相変わらずきれいだった。
そしてあの交換弁当の事も覚えていてくれていた。
自分がとても子供だったとAちゃんが詫びてくれた。
「交換して貰ったお弁当がとてもかわいくて美味しくて悔しかった」
「お返しにかわいいお弁当作ろうと思っても冷蔵庫に何もなかった」
「あなたに貧乏だって思られるのが恥ずかしくて堪らなかった」
私は、こちらこそずっと子供だったと謝った。
無知な子供でAちゃんの悩みに何も気が付かなかった。
「私、あなたの事が好きだったと思う。好きだったから恥ずかしかった」
こうして文章にすると芝居みたいな台詞だけど、Aちゃんが言うと格好良かった。
私たちは握手をしてさようならを言った。
連絡先は聞かなかった。
そして今日、娘が私に玉子焼きを焼いてくれた。
私が教えた通りの出汁巻き風でAちゃんの玉子焼きとは全く違うのに私はこれが一番美味しい玉子焼きだと思った。
Aちゃんの玉子焼きも、大好きな人の玉子焼きだから美味しいかったんだ。
あれは私の初恋だったんだな。
もうAちゃんに会う事はないだろうけど。
普段は給食なんだけど、その日はおうちの人と一緒に弁当作って毎日ご飯を作るって大変!作ってくれる人に感謝しましょーってだいたいそういう主旨だったと思う。
アラフィフの私が小学生だから、もう大昔の話なんだけど当時から既にシングル家庭もあってそれに配慮されてたらしく自分の机で自分だけで食べる決まりだった。
同じクラスのAちゃんはきれいな女の子で頭も良くてグループは違っってたけど、憧れの子だった。
ある感謝の日の朝に下駄箱でAちゃんに会ったらAちゃんはロッカーに自分のお弁当を隠そうとしていた。
「昨日大人の人が誰もいなくてちゃんとしたお弁当作れなかった。仲良しの子たちと席が近いから絶対に見られちゃう。恥ずかしい。いっそ忘れたって事にしようと思って……」
私は自分のお弁当と交換しようと提案した。
私の席は先生が近いので他の弁当を見ようとする子はいないだろうしいたとしても仲良しは他のクラスにいるから大丈夫。
これは言わなかったけど、憧れのAちゃんのお弁当も食べてみたかった。
Aちゃんはほっとした表情で交換してくれた。
お弁当の時間に開けてみたら、確かに大人の手が入っていない感じ。
半分以上がごはんとふりかけで、後は玉子焼きと魚肉ソーセージだけ。
でもこの玉子焼きがとてもとても美味しかった。
ちょっとだけ焦げてたけど、甘じょっぱくて我が家の玉子焼きとは違う味だった。
帰りにお弁当箱を交換する時に
「玉子焼きすごく美味しかった!」
と言ったら
「私が焼いたんだよ」
って嬉しそうに教えてくれた。
「今まで食べたどの玉子焼きよりも一番美味しかった。また次も交換して!」
そうお願いしたらちょっとびっくりした後にオッケーしてくれた。
感謝の日の朝は早めに来てさっと交換する。
帰りもささっと交換。
私は憧れのAちゃんに食べて貰いたくて自分の時は適当に冷食で埋めてたのに母や姉に習ってお弁当作り頑張った。
Aちゃんのお弁当はいつも同じ玉子焼きとソーセージとふりかけ。
玉子焼きは相変わらず美味しくて嬉しかった。
何回目かの感謝の日、いつものようにお弁当を交換してお昼に開けたら硬そうなご飯の塊がいくつか入っていただけだった。
今考えると、仏壇か神棚にあげたやつだったと思う。
私の大好きな玉子焼きもなく、お線香の匂いのご飯だけ。
その日の朝もいつも通りだったAちゃん。
一度もこっちを見なかった。
呆然と番頭を眺めてたら食べださない私を見て先生が覗きに来た。
咄嗟に蓋して隠したけど見られてしまって、でもベテランの先生だから何かを察してくれたんだろうね。
「具合悪いなら保健室に行ってきなさい」
って助け舟出してくれて教室から逃げ出した。
昼休みが終わるまでトイレで泣いて顔洗って戻った。
放課後、どんな顔していいかわからなかったけど待ち合わせ場所に行ったらAちゃんが怖い顔して立っていた。
中身が入ったままの弁当を返したら、私の弁当箱を投げて返された。
「カワイソーな子に恵んで気分よかった?」
って冷たく言われた。
返された弁当を開けたらあちこちつついてあったけどほとんど残ってた。
また涙が出て来て、言葉が出ないうちにAちゃんは帰ってしまった。
中身が入った弁当持って帰ったら、何があったのか聞かれるだろうから一人で手づかみで残りの弁当を食べた。
Aちゃんの玉子焼きより美味しい物は一個もなかった。
私はそれからAちゃんに完全に無視され、やがてAちゃんは転校した。
Aちゃんは美人で複雑な家庭だったのでいろんな噂があったけどどれが本当かわからないので、全部嘘だと思うようにした。
私は地元で進学、就職し結婚もして子供も生まれた。
ほんの数年前、Aちゃんと偶然に再会した。
私はおばさんになっていたけど、Aちゃんは相変わらずきれいだった。
そしてあの交換弁当の事も覚えていてくれていた。
自分がとても子供だったとAちゃんが詫びてくれた。
「交換して貰ったお弁当がとてもかわいくて美味しくて悔しかった」
「お返しにかわいいお弁当作ろうと思っても冷蔵庫に何もなかった」
「あなたに貧乏だって思られるのが恥ずかしくて堪らなかった」
私は、こちらこそずっと子供だったと謝った。
無知な子供でAちゃんの悩みに何も気が付かなかった。
「私、あなたの事が好きだったと思う。好きだったから恥ずかしかった」
こうして文章にすると芝居みたいな台詞だけど、Aちゃんが言うと格好良かった。
私たちは握手をしてさようならを言った。
連絡先は聞かなかった。
そして今日、娘が私に玉子焼きを焼いてくれた。
私が教えた通りの出汁巻き風でAちゃんの玉子焼きとは全く違うのに私はこれが一番美味しい玉子焼きだと思った。
Aちゃんの玉子焼きも、大好きな人の玉子焼きだから美味しいかったんだ。
あれは私の初恋だったんだな。
もうAちゃんに会う事はないだろうけど。
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