中3、夏の吹奏楽コンクール。

演奏前に控え室からステージ裏まで楽器を運ぶんだけど、これが狭くてやたら薄暗い階段を何階か登らなきゃいけない。

このとき一番大変なのは重くてデカイ打楽器。

しかも打楽器を運ぶのは主にコンクールに出ないけど手伝いに来た1年生。

もちろん大半非力な女子。

デカい俺は自分のチューバ(大きいラッパ)をさっさとステージ裏まで運んでから打楽器運ぶのを手伝った。

そんなとき、階段の踊り場で上を見ると、中1でも1番小さい超可愛かった子と他二人くらいがティンパニって馬鹿でかい太鼓を運んでたんだ。

いかにも危なっかしかったのでこっちと交換した方がいいかなって思いながら見てたら、その子が足を滑らせた。

彼女が足を滑らせたせいでもう一方の子もティンパニを支えきれなくなった。

俺はとっさにティンパニを支えようと駆け寄った。

うまく押さえられず、ティンパニは俺の左足の上に落ちてきた。

このときの通路はステージ裏まで続いてて、他校が演奏してるから、私語物音は絶対厳禁だった。

ギリギリ声は出さずに堪えた。

左足はジンジンしたけど別に言うほどじゃなかったし、ティンパニも階段2段分だけ落ちたくらいでなんともなかった。

とりあえず周りに大丈夫大丈夫と言いながらステージ裏まで行った。

足を滑らせた凄く可愛らしい子が泣きながらごめんなさいごめんなさいって言ってくたんだけど、痛いのと本番直前なのとでそれどころじゃなかった。

で、本番は問題なく終えたんだけど、演奏が終わって一礼するために立ち上がったときとき初めて左足に激痛。

崩れ落ちそうになったけどギリギリ堪えた。

で、ステージ暗転して撤収するんだけど、俺もう自分の楽器も放ったらかしで生まれたての子鹿のようなケンケンで裏に引っ込んだ。

暗転したステージ裏の薄暗い中で初めて左足の見たんだけど、当時の真っ白の靴下が半分くらい真っ黒に染まってた。

このとき人生で一番焦った。

ステージ汚してたらめちゃくちゃ迷惑かかる!って微妙にズレだ考えしてた。

そのまま病院直行。

爪が二枚割れてたけど、骨は無事だった。

包帯巻いて松葉杖一本だけ借りてホールにもどった。

観客席に居た部員に

「演奏中は気づかなかったけど、最後一礼して正面向いたときに赤いのが少し見えたし、ステージ上からのあり得ない撤収の仕方を見て観客席が騒ついてた」

と言われたとき、取り返しのつかないことをしてしまったと思って本当にごめんなさいと泣きながら謝った。

別にステージに血はこぼしてないからそこまで謝る必要は無いんだけど、とにかく泣きまくった。

後日、コンクールで泣きまくったという噂だけ流れて新学期から一時期泣き虫と呼ばれて本気で喧嘩したのも修羅場。

数年後、定期演奏会でそのホールに行ったとき

「このホールにはコンクール直前に交通事故で亡くなった血まみれの部員の幽霊が出るって言われてるけどアンタのことじゃないか」

って噂を後輩から聞かされたのも修羅場。