17年付き合って結婚しなかった二人の話
男はF
女はN
高校に入りFとNと俺は同じクラスになった。
Fは一見普通だが口数は少ないが面白い奴だが無愛想だが悪い人ではないが話しかけづらい感じのキャラだった。
Nは美人でしっかりしていて明るく気さくで男にも女にも人気があった。
Fとは小中と同じだったという。
NはFと会話ができる数少ない人間だった。
入学式から少し経ちクラス内で徐々にグループができる。
Fとは何となく同じグループだった。
グループはかなり仲が良かったが俺はあることについては周囲にまったく共感できなかった。
周囲も俺に共感することはなかった。
そんな俺の、ある“臭い”をFは感じ取っていたようだった。
俺もFに同じ“臭い”を感じていた。
Fも同じだった。
Fと俺が周囲に共感できないことは親や家族の話題だった。
俺達には親から虐待された経験があった。
お互い家族感や親子感で共感でき苦しみを理解してもらえる初めての相手だった。
Fとはグループ内でも特に仲のいい親友となっていった。
Fは表面的にはかなり面白い奴だったが一定の領域になると俺以外の他人には固く心を閉ざしていた。
また、性格もかなり良いのだが強面で無愛想だったので近寄る人間は限られていた。
NはFの内面的な魅力に気づいてかそれとも彼の精神的な傷を感じてか気にかけているようでちょくちょく話しかけていた。
2年生になりNだけが違うクラスになった。
学ランが暑苦しくなってきた頃、FとNは付き合いだした。
そしてそれぞれ進学し就職。
FとNは交際しFと俺は親友でNと俺は友達、そんな関係がずっと続いた。
交際期間が10年を過ぎた頃からたまにだがNから相談を受けるようになった。
NはFとの結婚を望んでいるが手応えがないというような内容だった。
その頃の俺は結婚というものについてしっかり考えるという事がなかったというか遥か昔に結婚はしないと何となく定め、その方向に歩いている感じだった。
俺は若いころなぜ人が結婚を望み子を望むのか全く理解が出来なかった。
親子とは親が子の心身を痛めつけるもの、夫婦とは憎しみ合うもの、家族とは牢屋、そう思っていた。
それが自分の家だけの話だということ、皆が同じ家庭環境で育ったのではないということに気が付いたのは二十歳を過ぎてちょっと経ったある日。
他の皆が結婚に前向きな謎が解けた日。
Fもそうだった。
家族とは愛、情、絆などなく憎悪や侮蔑に満ちた殺伐としたもの。
テレビや漫画などで見られる仲の良い家族は虚構の世界だからこそ存在しうる云わばお伽話の世界の物と本気で思っていた。
子を愛する親、親を慕う子、愛し合う夫婦が実在する現実を把握したのはやはり成人してある程度時間が経ってからだった。
だからそれまでNとの会話で家族のことになるとモヤモヤすることがあったという。
自分を痛めつける存在のことをなぜ明るく話せるのか人間にはそのような機能が自然と備わっているのか、それが親子愛なのか、自分にはなぜ、それがないのか、ずっと変な気持ちだったという。
俺もFも謎は解けたがだからといって結婚に前向きにはなれなかった。
じゃあ普通の家庭ってどんなだ?
幸せな家庭を思い描けない。
Nに相談を受けFに結婚しないのかと聞いてみた。
一生、恋人としていられたらいいとF。
結婚とか夫婦というものに拭い取れない強い拒否感があるのは俺も同じだった。
NはNではっきりと言えない性格だった。
例えばNとF二人でテレビを見ていて紹介されていた映画をNが観たいなと思っても先にFがつまらなそうというと同意してしまうようなところがあったらしい。
Nが周囲の誰かの結婚や出産の話をしても話題を換えられることばかりだったという。
30歳が目前になって俺がFに話を聞いても現状維持を望む結婚はせずにいたいとしか言わなかった。
俺はNにFが育った環境やそれ故に備わった感覚の話とFはNのことが好きだという事を話した。
Nは残念そうだったがFの全てを受け入れ心境の変化を待つと言った。
交際17年。
33歳。
二人は別れた。
Nが俺に話した話。
女医になった同級生に高齢での妊娠について忠告を受け思い切って、どうしても子供が欲しいと本心を打ち明けて断られたのだという。
愛するFとの間に子を持ち幸せな家庭を築きたかったのだといって泣いていた。
その気持ちは俺達には感じられないものだった。
後日Fに聞いた。
子供が欲しいと言われ、それだけは出来ないと拒否した結果だったという。
大学在学中、互いに就職が決まった頃にNに子供が欲しいか聞かれ生涯子を持つ気はないとはっきり伝えたのだという。
またNは自分の妹が妊娠した時にもこれで私が親に孫の顔を見せる必要がなくなったといったのだという。
それが本心でないことは分かっていたが自分の気持ちを優先したのだという。
俺だけかもしれないが俺にはFの気持ちが分かる。
二人が別れて2か月経たないある日、Nからの知らせ
「結婚します」
そしてNは会社を辞め嫁いで行った。
Nの友人でFと俺とも面識のあるQ(女)の話。
Nは両親からの結婚やFとの面会の催促を自分が働きたいからと言ってかわし続けていた。
そもそもNとFの実家は歩いて10分かからない距離にあり交際が長引くにつれ近所であることないこと囁かれ両親は肩身の狭い思いをすることが度々あったがN一人で両親をなだめていた。
Fとの交際中にもたくさんの男から交際や結婚のアプローチがあったがNはFを信じて全て相手にしなかった。
Nの結婚相手は何度断られてもアプローチし続けていた年上の医師。
別れたことも結婚したこともほぼリアルタイムで地元で伝わっていてNは複数の男と交際していたと噂されている。
医師を捕まえた途端にそれまで捕まえていた大企業サラリーマン(F)を捨てたと噂される。
それから2年程経過。
Fは結婚した。
過去にFと飲みながらの会話。
俺「お前はどんなことがあっても絶対に結婚しないのか」
F「何事も絶対とは言い切れない」
「もしも自分の理想通りの女性が現れて」
「その人が自分との結婚を望んだら」
「その時には結婚をまじめに考える」
Fの彼女はCさん。
Fよりも先にCさんが結婚を意識した話を口にしたという。
それに対してFは自分の家族や家族との関係を打ち明け、特に、子供が助けを必要としている時に何もできないであろう、それは自分がそうなった時に親に見放されたから、など。
Fに聞いた話。
Nと別れて1年弱、その理想以上の人と出会った。
互いに一目惚れですぐに交際を始めた。
その女性と一緒に『生きたい』と感じたという。
1度も自分を大事に思ったことがないという男が初めて『生きたい』と思ったのだという。
自分は良い親になれない人間だと話し、しかしCさんはFに「大丈夫」とそして絶対に大丈夫と思える根拠を訴えたという。
Fは、この人なら、と思い決意したという。
間もなくNから話を聞かせてほしいと連絡があった。
Fが結婚したのは本当か。
そうだと答えるとNは泣き出した。
子供はつくらないという事か聞かれた。
分からないと答えたがこういう時の俺の分からないは答え難い事実がるというのをNは知っている。
Nは更に泣いた。
終わり
男はF
女はN
高校に入りFとNと俺は同じクラスになった。
Fは一見普通だが口数は少ないが面白い奴だが無愛想だが悪い人ではないが話しかけづらい感じのキャラだった。
Nは美人でしっかりしていて明るく気さくで男にも女にも人気があった。
Fとは小中と同じだったという。
NはFと会話ができる数少ない人間だった。
入学式から少し経ちクラス内で徐々にグループができる。
Fとは何となく同じグループだった。
グループはかなり仲が良かったが俺はあることについては周囲にまったく共感できなかった。
周囲も俺に共感することはなかった。
そんな俺の、ある“臭い”をFは感じ取っていたようだった。
俺もFに同じ“臭い”を感じていた。
Fも同じだった。
Fと俺が周囲に共感できないことは親や家族の話題だった。
俺達には親から虐待された経験があった。
お互い家族感や親子感で共感でき苦しみを理解してもらえる初めての相手だった。
Fとはグループ内でも特に仲のいい親友となっていった。
Fは表面的にはかなり面白い奴だったが一定の領域になると俺以外の他人には固く心を閉ざしていた。
また、性格もかなり良いのだが強面で無愛想だったので近寄る人間は限られていた。
NはFの内面的な魅力に気づいてかそれとも彼の精神的な傷を感じてか気にかけているようでちょくちょく話しかけていた。
2年生になりNだけが違うクラスになった。
学ランが暑苦しくなってきた頃、FとNは付き合いだした。
そしてそれぞれ進学し就職。
FとNは交際しFと俺は親友でNと俺は友達、そんな関係がずっと続いた。
交際期間が10年を過ぎた頃からたまにだがNから相談を受けるようになった。
NはFとの結婚を望んでいるが手応えがないというような内容だった。
その頃の俺は結婚というものについてしっかり考えるという事がなかったというか遥か昔に結婚はしないと何となく定め、その方向に歩いている感じだった。
俺は若いころなぜ人が結婚を望み子を望むのか全く理解が出来なかった。
親子とは親が子の心身を痛めつけるもの、夫婦とは憎しみ合うもの、家族とは牢屋、そう思っていた。
それが自分の家だけの話だということ、皆が同じ家庭環境で育ったのではないということに気が付いたのは二十歳を過ぎてちょっと経ったある日。
他の皆が結婚に前向きな謎が解けた日。
Fもそうだった。
家族とは愛、情、絆などなく憎悪や侮蔑に満ちた殺伐としたもの。
テレビや漫画などで見られる仲の良い家族は虚構の世界だからこそ存在しうる云わばお伽話の世界の物と本気で思っていた。
子を愛する親、親を慕う子、愛し合う夫婦が実在する現実を把握したのはやはり成人してある程度時間が経ってからだった。
だからそれまでNとの会話で家族のことになるとモヤモヤすることがあったという。
自分を痛めつける存在のことをなぜ明るく話せるのか人間にはそのような機能が自然と備わっているのか、それが親子愛なのか、自分にはなぜ、それがないのか、ずっと変な気持ちだったという。
俺もFも謎は解けたがだからといって結婚に前向きにはなれなかった。
じゃあ普通の家庭ってどんなだ?
幸せな家庭を思い描けない。
Nに相談を受けFに結婚しないのかと聞いてみた。
一生、恋人としていられたらいいとF。
結婚とか夫婦というものに拭い取れない強い拒否感があるのは俺も同じだった。
NはNではっきりと言えない性格だった。
例えばNとF二人でテレビを見ていて紹介されていた映画をNが観たいなと思っても先にFがつまらなそうというと同意してしまうようなところがあったらしい。
Nが周囲の誰かの結婚や出産の話をしても話題を換えられることばかりだったという。
30歳が目前になって俺がFに話を聞いても現状維持を望む結婚はせずにいたいとしか言わなかった。
俺はNにFが育った環境やそれ故に備わった感覚の話とFはNのことが好きだという事を話した。
Nは残念そうだったがFの全てを受け入れ心境の変化を待つと言った。
交際17年。
33歳。
二人は別れた。
Nが俺に話した話。
女医になった同級生に高齢での妊娠について忠告を受け思い切って、どうしても子供が欲しいと本心を打ち明けて断られたのだという。
愛するFとの間に子を持ち幸せな家庭を築きたかったのだといって泣いていた。
その気持ちは俺達には感じられないものだった。
後日Fに聞いた。
子供が欲しいと言われ、それだけは出来ないと拒否した結果だったという。
大学在学中、互いに就職が決まった頃にNに子供が欲しいか聞かれ生涯子を持つ気はないとはっきり伝えたのだという。
またNは自分の妹が妊娠した時にもこれで私が親に孫の顔を見せる必要がなくなったといったのだという。
それが本心でないことは分かっていたが自分の気持ちを優先したのだという。
俺だけかもしれないが俺にはFの気持ちが分かる。
二人が別れて2か月経たないある日、Nからの知らせ
「結婚します」
そしてNは会社を辞め嫁いで行った。
Nの友人でFと俺とも面識のあるQ(女)の話。
Nは両親からの結婚やFとの面会の催促を自分が働きたいからと言ってかわし続けていた。
そもそもNとFの実家は歩いて10分かからない距離にあり交際が長引くにつれ近所であることないこと囁かれ両親は肩身の狭い思いをすることが度々あったがN一人で両親をなだめていた。
Fとの交際中にもたくさんの男から交際や結婚のアプローチがあったがNはFを信じて全て相手にしなかった。
Nの結婚相手は何度断られてもアプローチし続けていた年上の医師。
別れたことも結婚したこともほぼリアルタイムで地元で伝わっていてNは複数の男と交際していたと噂されている。
医師を捕まえた途端にそれまで捕まえていた大企業サラリーマン(F)を捨てたと噂される。
それから2年程経過。
Fは結婚した。
過去にFと飲みながらの会話。
俺「お前はどんなことがあっても絶対に結婚しないのか」
F「何事も絶対とは言い切れない」
「もしも自分の理想通りの女性が現れて」
「その人が自分との結婚を望んだら」
「その時には結婚をまじめに考える」
Fの彼女はCさん。
Fよりも先にCさんが結婚を意識した話を口にしたという。
それに対してFは自分の家族や家族との関係を打ち明け、特に、子供が助けを必要としている時に何もできないであろう、それは自分がそうなった時に親に見放されたから、など。
Fに聞いた話。
Nと別れて1年弱、その理想以上の人と出会った。
互いに一目惚れですぐに交際を始めた。
その女性と一緒に『生きたい』と感じたという。
1度も自分を大事に思ったことがないという男が初めて『生きたい』と思ったのだという。
自分は良い親になれない人間だと話し、しかしCさんはFに「大丈夫」とそして絶対に大丈夫と思える根拠を訴えたという。
Fは、この人なら、と思い決意したという。
間もなくNから話を聞かせてほしいと連絡があった。
Fが結婚したのは本当か。
そうだと答えるとNは泣き出した。
子供はつくらないという事か聞かれた。
分からないと答えたがこういう時の俺の分からないは答え難い事実がるというのをNは知っている。
Nは更に泣いた。
終わり
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