どこにでもある修羅場の話。

随分若い頃になるが、初めて本気で好きになった彼女ができた。

少し年上だった。

それまでの恋愛と言えばまさに子供の考えるそれで、本気で人を好きになると言うことを経験した。

順調に付き合いが進み、半年ほどが経過した頃のデートの帰りのこと。

彼女は気付いていないようだったが、少し前から視界にチラチラと不審な男がフレームインしてくる。

危ないやつだったらどうしようとか、彼女と相談するべきかイヤ何があっても彼女を守るべき、とか考えてるうちに男が距離を詰めてくる。

やがて男が彼女の名前を叫んで掴みかかってきたので、想定していた通りに相手の腕を掴み捻りあげ制圧。

にわかだが格闘技を習っていたのでこのあたりは拍子抜けするほど簡単だった。

男は彼女よりもさらに年上という印象、

「いや、違う、違うだろ!」

としきりに叫んでいたが、襲ってきた理由などは要領を得ない、というか話さない。

彼女は黙ってへたり込んでいる、相当怖かったんだろう(と思っていた)

「いい歳した男が、恥ずかしくないのか!」

などといっちょ前に説教したつもりになってたのは今でも恥ずかしい思い出。

ここからは速やかに通報→お持ち帰り。

そこでの事実の判明に衝撃を受ける。

・彼女は既婚者である

・男は変質者ではなく彼女の夫である

・襲ってきたのではなく現場を抑え問い詰める予定であった

・が、思わぬ反撃を受けパニックになり事情の説明ができなかった

問答無用で制圧したのは防衛ということで不問となったが、旦那さんは俺が

「彼女が既婚者だと知っていた」

と思っており、訴えるつもりであると聞かされたがこの時点で彼女が既婚者だという事実に衝撃を通り越して燃え尽きたようになってしまっていたので、うまく弁明できずに既婚者とは知らなかったと証明するのに時間と労力がかかってしまった。

以下は結末

・彼女と旦那さんはもちろん離婚

・彼女は俺との関係の継続を希望したが、さすがに無理とお別れを申し付ける

・なぜか迷惑料なるお金を渡されそうになるが、これもお断り

・彼女からは言い訳らしき言葉を聞くことは一切なかった

・彼女は最後まで何と言うか、清楚で大人な振る舞いだった。 浮気なんかした最低な人間には見えないほどに

・しかしそれが逆に俺の女性不信を招いたのか、恋愛する気はあるにはあるが 今にいたるまで彼女のひとりもできないでいる。