妻に不倫されたご亭主がわたしの勤めていた会社に突撃してきたことがあります。

浮気妻、間男ともにうちの従業員でしたorz

「お客さんが暴れてます!」

1Fのショールームからの電話で慌てて駆けつけました。

わたしの仕事の1つは、社内外問わずトラブル処理でした。

入社して仕事を選り好みせずに頑張っていたら、そのような役を押し付けられてしまいました。

今はどうなのか知りませんが、わたしの勤めていた頃は、右翼のかたが迷彩服で本を売りにきたりナントカ解放の方が協賛金を集めにきたり、うっかり左の団体をお客にしたばっかりに公安の方がいらしたり珍しくない程度にやっかいごとはありました。

そんな人たちと触れあうのは嫌でしたが、その仕事のおかげで役職ももらえて給料もよかったとはいえます。


今回暴れている方は短髪・口ひげ・柄物シャツ・小柄ですが厚めの胸板・・・その筋の末端の方とお見受けしました。

実際には単なる自営業者だったのですが。

「担当者がまいりますので、しばらくお待ちください」

「やかましい!」

必死の形相で止めていたショールームの女の子が壁まで突き飛ばされました。

これはいけない。

「お客様、落ち着いてください」

と腕をつかもうとすると

「お前かああ!」

「は、何がわたしなんでしょう?」

と聞く間もなく顔をブン殴られました。

思わず顔を覆うと2~3発、頭に追い打ちがきました。

わたしを殴ったね・・・右翼にも左翼にも殴られたことだけはないのに!

殴られた瞬間はくらくらとして、意識が戻ると同時に鼻の奥からこめかみにかけてひどい痛みが襲ってきます。

誓っていいますが、わたしはそれまで人を殴ったことは1回もありませんでした。

むしろ暴力的に物事を解決しようとする人種を軽蔑していたといってもいいです。

しかし喧嘩慣れしていない人間の悲しさ、自分が意味不明に殴られたとたんに恐怖と怒りであっさりと理性がとびました。

わたしは普段ふるまっていたほど冷静で知的な人間ではなかったようです。

後先を考えもせず狙いも定めず、ただ力いっぱい振り回した右の拳が相手に直撃しました。

右手をおさえてうずくまるわたしと、仰向けにノビている見た目ヤクザの人。

他にお客様がいらっしゃらなかったのが幸いでした。

わたしの右手は指が2本折れていて完治に2ヶ月ほどかかりました。

相手もアゴの骨にヒビがはいっていました。

素人のわたしの

「さあ殴りますよ」

というモーションの大きなパンチを直撃されてしまうのですから相手も見かけほどに強くもなんともなかったようです。


治療と平行して、警察の取り調べも何度か受けました。

当然「正当防衛」を主張しましたが、相手もアゴが折れていることですし「過剰防衛」となれば傷害罪あたりが適用されてしまいそうです。

当時つきあっていた彼女に

「前科がついてもわたしがついてるから」

と慰められ

「縁起でもないこというな」

と怒ったのも今では苦い思い出です。

ショールームの女の子が一部始終を証言してくれたこともあり、また会社を含めた当事者すべてが穏便な解決を望んだため、結論は不起訴で検事さんからの説教のみでした。

民事の方も「お互いさま」ということで、わたしがいくらか見舞金を包んで終わりになりました。

その過程でわたしはやっと

「なぜ相手がわが社であのような行動に及んだか」

を知らされたのです。

アゴさえ折ってしまえば、意外と礼儀正しく話の通じるご亭主でした。

拳を交えてはじめて通じ合う気持ちというものがあるのです。

・・・というのは大嘘で、わたしは自分が酷い目にあったこともあって

「ああいう馬鹿だから妻を取られるんだ。お前かあ、じゃないだろ。確認しろボケが」

と蔑む気持ちでした。

不倫をする方が悪いに決まっていますが、ご亭主の行動は賢明でもなく同情に値するものではありませんでした。

それはともかく社内不倫の始末なら、それもわたしの仕事でした。

殴り合いの示談の過程でご亭主の希望を詳しく聞きましたので、それに沿っての解決に心を砕きました。

不倫妻は退職届を既に出していましたが、素直に受け付けてやらず「懲戒解雇を検討している」とさんざん脅かして説教も地獄のように浴びせて泣かせました。

就業規則では諭旨退職で退職金を値切れそうでしたが、手続きが面倒なので精一杯恩着せがましく「自己都合退職」にしてやりました。

退職金はおそらくご亭主への慰謝料に消えたでしょう。

間男の方は降格させて左遷。

その後慰謝料支払いが滞ったようで給与の一部を法務局に供託されるご身分になりました。

わたしの私怨が混じっていたので、不倫妻、間男とも普段よりほんの少しだけ多く辛い目を見ることになりました。

わたしは他の会社のことは知りませんが、わが社(地元オーナー企業、従業員1700名)はトラブルの多い会社でした。

出張に行くたびに同行した男性社員と関係を持っていた女子社員をひそかに処理したり会議をすっぽかしてパートと突然旅行に行った役職者を捕まえにいったり営業が出払った隙に事務員と応接椅子の上でコトに及んでいた営業所長をとっちめたり・・・男女の問題だけでもいくらでもあります。

やがていやになってしまいました。

問題を起こす男性社員の多くがわたしより年上で、要らない恨みを買うこともたまにあり人間(それも見知った社員)の見苦しい面ばかり見て、仕事はどんどん楽しくなくなりました。

親が亡くなったのを機会に地元に帰り、もちろん職も替えました。

前科者でもついていくと誓った彼女は、地方にはついてきてくれませんでした。

「都会で前科者と暮らす>人口80万の地方都市で暮らす」

なのでしょうか。

収入も結果的に下げなかったんですが。

個人的にはこっちの方がよほど修羅場でしたw

以上です。

長文失礼しました。