私の祖父は昔はとても短気な人だったらしい。

私の眉毛の上には2cmほどの傷があって(傷の位置はフェイクです)その傷の原因を作ったのが祖父だと言う事は聞いていたので(祖父が暴れて割れたガラスの破片が直撃したとか)よく暴れたという周囲の話は本当なんだろう。

だけど、私の記憶にある祖父は、たまに激高するときがあったけど度々ってわけじゃなかったから“怒ったら怖い人”と言う程度の認識だった。

暴れる姿なんて見たことなかったし、普段は無口で矍鑠としてて、私はそんな祖父をカッコイイと思ってたし、その傷の事も、私自身はそれほど気にしてなかった。

うんと小さい頃の傷だから、黒子と一緒でそれも含めての自分の顔と思ってたし。

だから“おじいちゃん子”というわけじゃないけど祖父にはそれなりに懐いてた。


その祖父が、私が25歳の時に亡くなったんだが、遺言で孫娘である私に8桁単位のお金が残されていた。

その件についての相続争いはなかった。

生前から、両親や叔母たちには了解を得ていたらしい。

叔母に「父さんのせいで傷つけちゃったから慰謝料のつもりかしらねw女の子の顔に付けちゃって気にしてたからw」って笑いながら言われたけど、当の本人である私が気にしてないのになーと不思議な気分だった。


そして一年ぐらい経った頃に祖母から「見せようかどうか迷ったけど、これ読んであげて」って10冊近くにもなる大学ノートを渡された。

それは祖父の日記だったんだけど、そこに書いてあったのは私のことばっかり。

大事な孫娘の顔に傷をつけてしまった自分の短気さを詰り、こんな年になるまで、自分の感情を抑えることも出来なかった弱さを悔やみ、そんなことが最初の方には延々と書かれていた。

その後は普通の日記だったけど、ところどころに思い出したように反省が書かれてたり、孫娘の顔に付けた傷のことで、この子が将来悩んだらとか俺のせいで俺のせいでと書かれてあって、なんかもう読んでるのが辛くなって途中まで読んで祖母に返した。

祖母は「却って辛い思いさせちゃってごめんね。でも知っててほしくてね」って言われた。

私自身が傷のことなんて全然気にしてなかったのに、祖父はそんなにも長い間気にしてたんだと思うと泣けた。

もっと早く言葉で伝えてくれれば、全然気にしてないことも気にしないでほしいという事も伝えられたのになぁ。