夫と結婚する前、私の伯母の友人の友人の息子とかいう男性とお見合いしたことがあった。

結婚やお見合いなんてまだピンと来ないような歳頃だったけど、「ぜったい良い人だから」という熱意に押されて、約束場所に行った。

男性は5歳上のごく普通の印象の人で、ある会社の技術職をやってるとかで、女性と出会いがなかなかないのだとか、伯母とその友人というおば様が話してた。

漫画に出てくるシチュエーション通り、料亭だったかの個室に通されて、挨拶してあとは若い人で、みたいな流れになった。

最初はお互いの仕事の話をしたり、趣味の話をしたりしてた。

会話が続かない人で、話してて汗が出てきた。

私がお見合いの前週に女友達と行ったドライブ旅行の話をすると、サッと表情が変わり、「車はマニュアル?」と訊かれ、「いやオートマです」と答えた。

するとホッとしたように笑って、「そうだよねー女の人はオートマだよね」と言った。

それから『マニュアルの運転免許を取るのがいかに大変で、比べるオートマ限定はいかに楽か』という話をし始めた。

適当に頷いて聞いてたら、「だからあなたは免許取るの楽だったでしょ」と言われ、

「あー免許はマニュアルですよ。普段の車も父の払い下げの古い車でマニュアルですよ。旅行先でレンタカー借りたらオートマで」と答えたら、見る見る不機嫌な顔になり、押し黙られた。

何を訊いても言っても答えなくなって、怖くて中座して「何か不興を買って怒らせたみたいで」と伯母にSOS呼び出しした。

その日はまあ伯母が「もうお時間ですね」とか言って解散とし、お見合いは失敗に終わった。


と思ったら、数か月後忘れた頃に「また会いたい」と先方が言ってるがどうかと、伯母から連絡があった。

「死んでも嫌」と答えた。

すると「どうしてもこの手紙だけ渡してほしい」と先方から頼まれたと、伯母から私にその手紙が届いた。

内容は「自分の免許をオートマ限定からマニュアルに変えました。講習も簡単だし数万円で出来るんですね。マニュアルの免許に気おくれした自分が馬鹿みたいです。今の僕なら大丈夫ですよ」とか書いてあった。

免許と写った自撮写真もあった。


あんなオートマ貶しておいてお前はオートマだったのか!とか、あの不愉快な黙り込みは気おくれwだったのか!とか、色々驚いた。

返事なんか書きたくもなかったけど、トラブルになると怖いので、丁寧な挨拶文の後に丁重な言葉で「免許の種類がどうこうとかじゃなく、貴方の中身が嫌です」と書いて送った。

返事は無かった。