学生時代から付き合いのある友人に、ニートの弟がいた。

俺は友人宅にしばしば遊びに行ってたから、その弟がガキの時分から結構親しかったのな。

聞いた話だが、友人弟は大学を卒業した頃が就職氷河期ということもあったんだろうが、就職活動に失敗してしばらくフリーター。

で、小金(20万とか30万とか)を溜め込んだらバイトも辞めて実家でゴロゴロしてたんだと。

ギャンブルも酒もやらない、親に小遣いせびるわけでもないが、昼まで寝てネットして食って寝るニート生活。

友人父は、しばらくは大目に見ていたが、一度堪りかねて怒鳴りつけたんだと。

友人がため息混じりに語ったところによると、

「そんな生活でまともな就職ができるか、バイトにせよ就職にせよ仮にまた働き出しても辞めるのがオチだ、生活を改めて職安に行く気がないなら出て行け」

ま、親としては当たり前の説教だと俺も思う。

昔のあいつは頭もよくて素直ないい子だったのになぁ…と、友人に愚痴られながら思ったもんだった。


が、それからしばらくして、友人弟は正社員で就職を決めてきた。

職歴ないのによくできたなーと思って聞いてみたら、ブラックっぽい企業として知られた会社だった。

おいおい大丈夫かよ…と不安に思いつつ、正直昔馴染みとはいえ他人事なので放置してた。

が、友人弟は俺が思っていたより妙なところでハイスペックだった。


その就職先はしばしば深夜まで残業があると聞いていたのに、友人弟が深夜帰りだったのはほんの初期の頃。

勤め始めて半年くらい経った頃には普通に定時で帰って来るようになっていた。

これは直に聞く機会があったので確認してみたんだが、

「だってあの会社の仕事、表計算ソフトの入力でえらい時間かけてたんだもの。関数書き換えてマクロ組んだら速攻で終わるようになった」

とあっけらかんと答えてきた。

表計算ソフトの使い方、関数やマクロなんてどこで覚えたの? と訊いたら、

「勤め始めてからいじってたら何となくわかるようになった」だと。

職場の人間関係も、性格のきつい人はもちろんいるが、上司に気に入られているのでどうにかなってると。


で、数年間その会社で勤めてスキルと職歴、あといくつかの資格を身につけてから、友人弟はもっとまともで高給な会社にあっさり転職。

その会社でもばりばり働いて、東京の本社へ栄転したらしい。

つい先日、友人と飲んだときにそう聞いた。

友人父は、今では「あいつは仕事ばかりでろくに帰省しない」と、かつてのニートについて愚痴っているらしい。

何というか、数年前までニートのはずが今や友人や俺より高給取りになってることもそうだが、根本的に頭がいい・有能な奴ってのは実在するもんだなぁと目の当たりにしたのが衝撃的だった。