昔住んでいた田舎町での葬式

新しく越してきた新参者の俺はそもそも葬式の手伝い側に立った事がないから、今でも勝手が判っていないのだが、そこでは進行なんかは葬儀屋がやる代わりに飾り付けや帳場は町内会の男衆がやると決まっていたらしい

(しかも、帳場にいるのにも関らず皆私服で中にはジャージ姿の爺達もいたんだが、ああいう場で私服が通用するのは普通なんだろうか?)

亡くなった方は町内会でも名を馳せた教職上がりの元地主だとかで、県内外に数多くの教え子がいるだの有名企業の役員は皆後輩だの町内会の人達が自慢げに語っていたのだが、そんな人物だったからか香典のケタが0ひとつ多いなんてレベルじゃなかった

「連名で申し訳ないんですが・・・」と申し訳なさそうに出された香典が二桁万円だったり

「社の代表でこさせていただきました」という会社員らしき人から、それ役員全員分?一体何人分?という香典の束を渡されたり

最初は諭吉を数えている間「すげーよ、こんな数拝んだ事ないわーw」だったのが、二桁過ぎると香典泥棒が現れない様に祈りながら数え、三桁超えると感覚麻痺して何も感じなくなってくる自分がいる事にびっくりした

後で勘定合わせをするのに香典袋に金額を簡単に書きなぐるんだけど、最初の頃は隣の人と「この人5万円入れてるよ、すげーよなぁ」「ひゃー、20万円入ってるわ!」とか騒いでいたのが、

麻痺しちゃうと「今来た分ね、最初は5、次3、次0.5」と煙草を吸いながら淡々と金額だけ記入していく感じに

所が帳簿が合わなくなったらみんな一斉に現実に戻ってくるね

受付の人達が香典を受け取ってる裏で大慌てで現金を数えなおして帳簿とにらめっこを何度も続け、香典袋に書かれている数字を電卓で打ち、帳簿に書かれている数字を電卓で打ち…

それでも金額が合わなくて「いつ頃金額を間違えた?」「何時頃は誰々が何を担当してた?」と誰かを疑うとかの前にどのタイミングで間違えたかの大騒ぎ

それが3,000円5,000円とかいうなら皆でポケットマネーを出し合って補填すればすむ話だけど、一度の金額が大きい分帳簿間違えの額も大きくて洒落にならない

(それでも同じ町内会の男衆しか出入りしていないから疑う訳にもいかないし、結局年寄連中が遺族に話をつける事で何とか丸く収まったらしいが)

今はその田舎から引っ越して違う地域に住んでるから葬式の手伝いで借り出される事なんてないんだけど、通夜告別式の二日間で300人以上の諭吉さんを数えたのは後にも先にもあの一回だけだった

正直、もう二度とあんな金勘定はしたくないと思うし、分相応のお金があればそれで十分だなと思わされた経験だったかな