学生時代、今頃の時期は某巨大動物園で短期バイトしてたのね。

動物園が夏休みの小学生対象に自然とふれあおうツアーっていうのをやっていて、その引率を補助するといった内容だよ。

人ってなんでも集団になると各々の性格がよりくっきりする部分があるね。

子どもを通じて垣間見える親もそう。

保護者とは朝夕の送り迎えの時にしか接しないけど、子どもとは一日一緒にいるから。

初日の朝、高級ファッション誌から抜け出してきた恰好まんまのママで、その息子も見るからに坊ちゃま風いでたちとかね。

だから引率バイト同士これは警戒したほうがいいかなって見てたのに、子は半日で土まみれ、頭抱えた。

でも夕方楽しそうに網ふりまわしているお子さんに高級ママぱっと笑顔になってよかったわねえ、ありがとうございますって。


でも自分がぶちまけたい話は逆の例。

初日の朝は覚えていない。

とりたてて変わったところのない普通の親子に見えたんだろうと思う。

けど、その子の弁当がコンビニのおにぎりだった。

その年コンビニ弁当の子は他にももう一人いたけど、そっちの子は他の子同様わいわい他の子とおしゃべりしながらお弁当を楽しんでたので問題なく見えた。

おにぎりの子はひとりぽっちで、おにぎりを必死で隠すようにしながら口に押し込んでた。

翌朝、そのおにぎりの子に注意を払いはじめていたのでその母をはじめて個別に認識した。

少し早めに来てたので世間話したのね。

それで話してみると、そのママは笑顔であたりさわりのない話しかたをしながら、なんというか、うまく全部自分は悪くないんですよって持っていくのに気がついた。

向こうから昼時の話をしてきたのでそれとなく話を向けるチャーンス!と思ったが、後から考えるとこれは自分のほうがしてやられてたね。

その母親はずっとにこにこ貼りついたような笑顔で、うちの子はコンビニのおにぎりが好きで、本当に好きなんですよ、そりゃあ作ってあげられたらそっちのほうがいいんでしょうけど、コンビニのおにぎりが好きでね、って言ってた、笑顔で。

子どもはそのそばでなんともいえない顔でうつむいてた。

自分は何も言えなかった。

いろんな事情があるのはその当時の自分でもわかってた。

作ってやりたくても何らかの事情で作ってやれない親御さんだっているだろうし、たまたま寝坊した場合には助かるだろうし(初日コンビニ弁当の子の親がそう言ってた)、本当に子どもがコンビニ弁当が大好きとかそういうケースだってあるだろう。

ママのお弁当がいいんだけど、ずっとパパのお弁当なのパパのしょっぱいからきらーいって言ってた、パパしか送り迎えに来ない子もいた。(パパ…)

でもその子は明らかに「周りのみんなが親の作ってくれた弁当を食べている中、コンビニおにぎりだってことを隠しながら食べるコンビニおにぎり」が好きじゃなかった。

お昼のその子はすごくみじめそうな顔でうつむいて、バッグで隠しながら食べてた。

本人も親にお弁当を作ってもらいたいって、コンビニおにぎり美味しいよねって言ったらそう言ったんだから。

全日コンビニおにぎりだったのは後にも先のもその子だけ。


でももっとその親子がいまだに気にかかるようになるできごとがその後にもあった。

ある日、何十人か引率するなかで何人かの男の子がカブトムシやクワガタをつかまえた。

オスを捕まえた子は特に嬉しそうだった。

翌朝、コンビニおにぎりの母がいつものように世間話にやってきて、昨日カブトムシを捕まえた子がいるんですってね、でもうちの子は捕まえられなかったじゃないですか?そういうのって全員じゃないんですか?いえ別にね…ってずっとその話ばかりしてきた。

自然の中にいる生き物をたまたま捕まえるのであってほしい子全員に配るわけじゃない。

コンビニ母はクレームにはならないよう世間話の範疇で、でもすごい食い下がってきた。

目が怖かった。コンビニおにぎりの話をしたときと同じような目で、ものすごくうっとうしい顔だった。

うっとうしいというかへばりつういてきて自分のことばかり言うからすごく振り払いたくなる顔。

子どもはそばでまたうつむいてた。

自分の言語能力じゃうまく言えないけど、そのコンビニ母は子どものこと考えてるようにはどうしても見えなかった。

その子が今どうやっているんだろうか元気でいるだろうかと毎年、この時期になると思い出す。