私には兄が一人いる。

よくある愛玩子と搾取子で、兄が愛玩子。

実際兄はとても頭が良かった。

勉強しなくても学年でいつも20位以内だった。中学生までは。

高校に入ったらみるみる落ちこぼれになったが親の中では兄はいつまでも優秀で、私はできない子のままだった。

私は実家と疎遠になり、数十年。

今や兄はアラフィフ。私はアラフォー。

末は棋士か東大生かと言われた兄は結局進学せずフリーター。

でも母や親戚一同の目には「親元を離れない親孝行な息子ちゃん」で、私は故郷を捨てた鬼娘だそうだ。


現在は父が亡くなり、実家には母と兄のみ。

今父の法事のため実家に帰ってきてるが、兄も母も相変わらずだ。

テレビを観ながら奇妙な持論を得々と演説する兄、それを目を輝かせて聞く母。

もう諦めがついてたと自分では思ってた。

でもついさっき、食べるものがなくて、キャベツに塩昆布と胡麻油をかけたものを作ってたら兄が来て鼻で笑って言った。

「俺はキャベツの千切りにドレッシングをかけたぞ。それに比べてお前は…」

自分もネタじゃないかと思う。

でも兄は本当にこう言ったし、本気で言っていた。

本気で私が「キャベツにドレッシングを食べる方法を知らない」と思いこみ、嘲笑っていた。

私は「ああ、それは普通に美味しいだろうね」としか言えなかった。

同時に兄の知性と感性がこれほどに退化している(止まっている、かもしれない)ことが悲しかった…