私が通ってた小学校・中学校は図書室が無かった

周りにその話をすると、そんな学校あり得ないと嘘だと思われるんだけど、本当に無かった

村唯一の小さな図書館も家から8キロ離れていて、しかも歩道どころか舗装されてない道を通っていかなくちゃいけなくてバス代も往復で1000円近くかかった

学生の頃は貧しくお小遣いもなく、共働きの親にお願いしなくては通えなかったし、貸出の期限を守れる保証がなくて、気軽に借りられなかった

だから、家にある両親の本や、幼い頃に親戚が買い与えてくれた日本昔話、グリム童話、アンデルセン童話、イソップ物語なんかを何度も何度も暗唱できるくらい繰り返し読んでいた

そんな私の本に纏わる思い出


小学校の頃、新しく赴任してきた担任が「本を読めないなんて可愛そうだ」ということで、クラスの子たちに「おばけになったアサガオのたね」を貸してくれた

名簿順で読んだら次の人に回すのだけど、私は一番最後だった

先生は一人一週間の計算だったみたいだけど、春から始まり、季節がめぐり、冬になって指折り数えても、本が回ってくることがなかった

私は母に「こんなのまわってくるわけない!」と愚痴を話していて、母はある日、その本を本屋で買ってきてくれた

私は待ちきれずに学校の休み時間もその本を読み続けた

久々の本が嬉しくて、二回、三回と読んだと思う

三学期のはじめ、先生の本が行方不明になっていたことが判明した

誰のところで無くなったのかわからなくて、先生は「人から借りたものを無くすのは人として最低なことだ」と説教を始めた

すると何人かが「名簿順が最後なのに私子さんがその本を読んでいました」と発言した

とんでもないことが起こったと思った

私が本を好きなことはクラスで有名だった

先生の本を待ち遠しく思っていたことも知っていた人は多い

待ちきれずに私が盗んだんだと教室の空気はすでに結論が決まりきっていた

私は泣いて否定したが、先生は私をかばってはくれなかった

私から帯付きの、とてもきれいな状態の本を取り上げ、「恥ずかしいことをした」と静かに告げた

その時の私はまだ、本の後ろに重版を証明する術があることを知らなかった

私は盗みという卑劣な犯罪者に成り下がってしまったことを母にも打ち明けられなかった

それから私はクラスでいじめの対象となった

一クラスしかない小さな小学校で、その後立場が変わることはなく、誰かが物を失うたびに私のせいにされた

数年後、私の妹がその担任に当たったとき、やはり「おばけになったアサガオのたね」を貸し出していたが

その時、背表紙にマジックで私の名前が書いてあったのを上から塗りつぶしてあるのを見て、妹だけは何かを察したようだった

妹に人生の汚点を知られてしまった気分だった


中学はお金の関係で私立受験ができなかったので諦めたが、高校は勉強して遠くの進学校へと入学した

高校の国語の教師は、文学に深い知識を持っている方だった

芥川龍之介、太宰治、森鴎外、川端康成、安部公房、夏目漱石、その他、高校入試で問われるような作品は、その高校を受験する生徒なら知っていて当然という考えだった

実際に入試問題には、毎年本の冒頭を載せ、作品タイトルと作家を答えさせたりするような問題は必ず出題されていた

しかし、身近に本がなかった私は、その殆どを知らないまま入学してしまった

しかもそれまで、機会があれば文豪作品ではなく、ハリーポッターやネシャン・サーガなど洋書ばかりを読んでいたので先生の提示した舞姫やこころ、夏の葬列は癖が強くて、読み解くのに苦労し、深い理解が必要な現代文の学校のテストも散々なものだった

周りも教養がある人ばかりだったから、日本を代表する名作さえ読み解けない私にクラスメイトはよく失笑していた

国語の先生は私の無知さに呆れさえしていたと思う

あんな恥ずかしい思いをしたのは初めてだった


高校には図書室があったから、入り浸った

だけど国語テストで知らず和書にトラウマを抱えてた私は、相変わらず洋書を読みふけっていた

今でも和書は苦手意識が抜けない

大学に入学するとバイト代が入ったので、中古本を馬鹿みたいに買い集めた

一度に20冊、30冊と買うから、あっという間に本棚が埋まってしまった

その時まだスマホもなく、新しい本を読むために古い本を手放さなくてはいけなくて、かなり苦心した

五年ほど前からスマホに変え、スマホで自由に小説を楽しめるようになった

しかし、スマホの見過ぎか、頭痛持ちになった

スマホの画面をみていると、目の奥が痛くなり、脈打つような頭痛がし、そのうち吐き気までして動けなくなる

紙なら一日中読んでいられるが、スマホだと最長でも4時間が限界

本を読むことにこうも煩わされるのが辛い

スマホで何時間でもアニメやゲームができる人はどうして頭痛や吐き気が出ないのだろう