入院中の出来事

隣に集中治療室から一般病棟に移ってきた男性の話

この人、頭の中で血管が切れて救急車で運ばれてきたらしい

最初の夜はうわ言を言いながら死ぬんじゃないかと怖がって泣いてた

毎日奥さんが見舞いに来て、そばでつきっきりで世話をしてるから愛されてるんだなと思ってたんだけど、薬が効いて症状が緩和したとたん、奥さんが豹変した

「ねぇあなた、今どんな気持ち?」

男性は病気の影響で言葉を理解できても発言ができなくなっていて、何も反論できない男性に向かって奥さんは淡々と自分が言われていた言葉を繰り返してた

「病気になるのはお前に『クモリ』があるからだ」

「お前の『クモリ』がお前を苦しめてる。その『クモリ』を浄化しないからこうなるんだ」

「お前が病気で苦しんでるのは自業自得だ。きちんと『メイシュサマ』にお祈りしなかったからだ」

「『メイシュサマ』にお祈りしておけば病気なんかにならない。お前の気持ちが届いてないから『メイシュサマ』に守ってもらえないんだ」

「きちんと『メイシュサマ』に感謝をすれば死なないんだ」

「お前のせいだ、お前が悪い」

これを来る日も来る日も繰り返してた

男性はこの言葉を言われるたびに涙を流してた


なんで俺がこんなに詳しく覚えていたかというと、奥さんと入れ替わりに来る娘さんたちも全く同じ言葉を何度も何度も繰り返していたから

長女さんに至っては「私が発作で倒れたとき、救急車呼ばずに『浄霊』してたよね」

「薬は毒だっていって、命に関わる薬を隠したり捨てたりしたよね」

「それを私が小3のころにやったんだよ?覚えてる?」

「私が先天性の難病にかかってたのは自業自得なんだよね?じゃああなたがこんなことになったのも自業自得だよね」

「だから誰も同情しないんだよ。わかってる?あなたの言葉があなたに返ってるんだよ」

「良かったね、あなたの言うとおり私達に投げかけてた言葉が『クモリ』になって全部返ったよ」

「二度と元に戻らないから一生死ぬまで浄化され続けるね。よかったね」

という言葉を来るたびに繰り返してた

娘さんたち、まだ若くて学生かな

それなのに淡々と話す声がまた澄んでいて聞きやすくてそれが余計怖かった

奥さんの言葉はまだ怒りとか悲しみとか呆れがわかるんだけど、娘さんたちの言葉は本当に感情が無くて淡々としていて、めちゃくちゃ耳に残った

そのせいで俺が夜うなされたほど


話をまとめると男性は長女さんが生まれてすぐにバカなバイク事故を起こして二度も死にかけて、そのときにカルト宗教に洗脳されてしまったらしい

それからというもの何があっても宗教宗教で、その宗教が薬は悪という考え方をしていたから家族は随分迷惑を被ったそう

「毎日毎日お祈りにいって献金してたのに、誰がお見舞いに来たの?」と言った長女さんがクスクス笑ってたのはダントツのホラーだった

次女さんは忌々しそうに「私達にどこまで面倒をかければ気が済むの?」と吐き捨てていた

その時はひどいと思ったけど、その後きた奥さんに「長女を産んで入院中の私に『子供とお前の食い扶持はお前が稼げ。俺は一銭も出さん』と言ったんだから、あなたもあなたの食い扶持自分で準備するのよね」と返されていて同情心が吹き飛んだ

これまでの仕打ちの仕返しをこうやって弱ったときにされてるんだな

こう言いつつも三人とも男性の身の回りの世話はしてたから女性ってすごいと思う

俺は先に退院したけど、男性は最後まで言葉を取り戻せずに毎日家族からこれまで投げかけた約20年分の言葉を返されてた