ブラック新入社員の頃の話。

設備機器関連のショールームに就職した。

商品説明、見積作成、メンテナンス受付が主な仕事。

入社早々先輩社員からメンテナンス受付を任された。

過去から現在までありとあらゆる商品知識が必要だから、新入社員の勉強にはちょうど良いと言われ、特に疑問も感じず日々新旧のカタログをひっくり返して調べながら応対していた。

ある日、ジジイが来店してガスコンロのバーナー(火が出る所)とゴトク(鍋を載せるところ)を注文。

数日後、注文の品が届いたのでジジイに連絡。

ところがジジイ、見た途端にバーナーを指差し

「こんなもん頼んでない」

いやいや頼みましたから、と言っても頼んでないの一点張り。

水掛け論になるのが分かったのでバーナーは返品することにしてゴトク代だけ貰った。

しかしジジイが帰った後事務所に持ってったら

「返品?出来ないよ?」

と事務課長がいう。

「は?でもお客さんの勘違いなんで」

「お客さんの勘違いでもあなたのミスでも、会社は一度出荷した物は絶対受け取らないよ」

「じゃあどうすればいいんですか」

「自分で払って。どうしても嫌なら始末書書いてもらうけど、ボーナスの査定が下がるから一割くらいボーナス削られるよ?」

「始末書って、営業さんが発注ミスしたときに書くアレですか?何で私が?」

「だって会社に損失出したでしょ?嫌だったら払って」

「」

…結局千円ちょいだったが、自腹を切った。

少額とはいえまだ学生気分も抜け切らない頃の理不尽な出費だったので、とにかくショックだった。

ショールームに戻って先輩社員に話すと、「あー…」と言葉を濁してニヤニヤ。

この時になってアフターメンテナンス担当が新入社員になる理由と、自分がブラックに入社した事実に気づいた。

情弱だった自分が憎い。


腹が立ったので、二度と無いように注文依頼書にサイン欄を設け、以降お客さんには発注時必ずサインをもらうことにした。

事務員も時々発注ミスしたり発注自体忘れたりしてて、その度に私がお客さんに怒られたので、事務員に本社宛の発注書のコピーと納期に関する文書を提出してもらうことにし、管理を徹底した。

てか私がくる前にこの位のては打っておいて欲しかった。

しかし私がいくら一生懸命対応しても、実際に納品や修理をする本社は対応は遅いわ修理は適当だわ土日祝日盆正月は受け付けないわ(ショールームは無休なので依頼だけは来る)の殿様商売で、お客さんの直接の苦情を受けて平謝りするにはいつも窓口の私。

他の社員は見て見ぬ振り。

絶対に辞めてやると思いつつ世間は就職氷河期。

グズグズしてるうちに一年経ってしまった。

すると件のジジイがまたやって来た。

去年「こんなもん頼んでない」と言い放ったバーナーを持って。

新しいのを返品し(私に買い取らせて)古いのを使い続けてたんだから当然ボロボロ。

今年こそ買い替えるのか。

だったら買い取ったの捨てずにとっといて今回のに出せば良かったなー(使い道もないので捨ててしまってた)と思いながら応対したら、ジジイいきなり怒り出す。

いわく

「去年買い替えたばっかりなのにもうダメになった。不良品だから交換しろ」

……ブチっとキレた。


「去年は一回取り寄せましたけど頼んでないっておっしゃって返品されたじゃないですか」

こっちがブチ切れたのが伝わったのかジジイ一瞬ひるむ。

「あぁ!?そうだったか?」

「買われてません。私が担当して、返品分を私が支払いましたから、絶対に忘れません」

「あ?あんときの姉ちゃんか。アレ姉ちゃんが買い取ったのか」

「そうですが」

ここで謝罪するかと思いきや。

「ふーん、それどこやった?」

「は?使い道ないから捨てましたけど」

「はー?姉ちゃんアホやのう。取っときゃワシ買わんで済んだのに。勿体無い事したのー」

…つまり自分の勘違いで私に支払いさせていることを分かった上で、私が買い取ったバーナーをタダで寄越せと。

それで謝罪どころかアホ扱いですか。ほー。

頭にカッと上った血が、すぅっと下りた。

入社してからのことが走馬灯のように一瞬よぎる。

勿論良いお客さんにも巡り合ったけど、人生こんな高確率でDQNに遭遇したことはなかった。

僅か数日の納期が待てずにショールームの展示品を強奪して行ったキモヲタ風のオヤジ(生き埋まれ)、

10年以上掃除しなくて壊れた換気扇を「掃除の仕方を教えなかったお前らが悪い」と無償交換しろと迫ってきたジジイ(何のために取説が?)、

定年になって料理でもしてみようとキッチンに立ったら、キッチンの扉の取っ手がズボンのポケットに引っかかって不快だからと、バブル時代に買ったキッチンの扉を取っ手のないものに無償で全交換しろとほざく団塊オヤジ(エプロンでもしろ)、


ショールームにくるたびに「私こんなの聞いてない、頼んでない。勝手に見積もりされた」と喚く糖質ババア(我々激務なので頼まれない見積なんて絶対作りません)。

息子たちが毎日キッチンによじ登って困るから調理台の高さを上げろという893風オヤジ(10センチそこそこ上がっても変わらん。その前に躾シロ)、

顔見る度に歯周病臭撒き散らしながらセクハラ発言する取引先のエ□オヤジ複数(並べて撃ち抜きたい)、

そいつらの対応でオロオロしてる新入社員を、助け舟も出さずただひたすらニラニラヲチし、客が帰ってから

「なに今の対応~」

「ああすれば良かったのに~」と説教垂れる年増社員ども。


展示会に出れば6時間飲まず食わずで立ちっぱなしの私の隣で営業はコーヒー片手に座って談笑してる。

誰一人休めともお昼に行っていいとも言ってくれない。

脚はガクガク、頭はクラクラ。

その上おかしな制服フoチのキモヲタにカメラ持って追い回され、支給されたはずの弁当とお茶は何故か目の前で配送業者のオヤジの胃に収まった。

昼間は仕事サボって営業車で寝てるくせに、夕方終業間際になって大量の仕事を翌朝までやっとけとかムチャぶりし、携帯の電源切ってそそくさと帰る営業。

土日に施工現場から緊急の要請があっても絶対に携帯に出ないくせに、私の休みの日にはカタログ見ればすぐ分かるような質問をしに朝っぱらから電話かけてきて謝罪も礼もない。

面倒な業者は打ち合わせから説明、クレームまで全部ショールームに丸投げ。

深夜まで残業しても

「あり得ないから」

という謎の理由で残業代を一切つけてくれない事務課長。

何を訴えても

「そこなんとか我慢してー。俺だっていっぱいいっぱいやねん」

しか言わない無能な所属長。

同じく、

「なんとかならないものをなんとかするのがあなた方の仕事」

と管理責任丸投げの支店長。

震災特需で前年比300%以上の見積もり作成数で毎日深夜残業の中、運転手付きの高級車で乗り付けて、開口一番

「暇か?」

と訊いてきやがった副社長。

あー、とっくに無理だったわ、何で辞めなかったんだろ。

何かもうどうでも良くなったので、営業スマイル終了。

「とにかく発注しないとこのバーナーはありません。発注しますか?やめておきますか?」

能面のような顔で怨念オーラ全開で問うと、ジジイも流石に思うところがあったのか大人しく発注してサインをし、前払いで支払って帰った。

その後いつも通りニラニラヲチしてた年増が

「ちょっと今の態度は~」

と言いかけたので、

「ふーんそーですかーじゃあ見本見せてくださいよー後学の為に完璧な対応とやら見せて欲しいっすー」

と一息で棒読みして返したら

「何それ」「こわぁい」

と言いながら逃げてった。


その後はなかなかやめさせてもらえなかったけど、就業時間中に過呼吸起こして救急車呼んだらあっさり所属長と事務課長、支店長が飛ばされて(多分逃げた)、ほどなく無事ブラックから開放された。

初々しい新入社員の頃の面影はすっかり消え失せて、口の悪い年増ババァになっちゃったけど30前なら逃げ出せと言われるこの会社から、取り敢えず30前にオサラバ出来ただけでもういいや。

やっぱり大学は真面目に通って、就活はしっかり情報集めてやらないとダメだね。

激務すぎる上に土日も無かったから彼氏もできないし、友人関係もずいぶん希薄になった。

今、一緒にクリスマスを祝う家族がいることに感謝して投下。